2月。それは臨床心理士や公認心理師が就職・転職を考える季節。
「臨床心理士 求人 〇〇県」で検索し、求人情報を見て「はぁ…資格取得して手取り18万はきついよ…」とため息をついた経験を持つ方も少なくないのではないでしょうか。
「大学院まで行っても全然稼げない!」と叫ぶ臨床心理士・公認心理師の方に少し考えてみてほしいのが、「もしかして私たちはマーケティングが不足しているのでは?」ということ。
今回は「儲からない」と嘆く臨床心理士・公認心理師の背景にはマーケティング不足があるんじゃないか…という私の見解について少しお話ししてみたいと思います。
臨床心理士・公認心理師の「儲からない」はマーケティング不足
そもそもマーケティングとは?
「そもそもマーケティングって何やねん!」という方もいらっしゃると思いますので、wikipedia大先生の言葉を引用してみます。
マーケティング(英: marketing)は、価値あるプロダクトを提供するための活動・仕組みである
wikipedia「マーケティング」
要するに「良い商品やサービスをお客様にお届けするための活動や仕組み」ということ。
もう少し具体的に中身を見て行くと、
・価値を探るための顧客インタビュー
・価値を組織として創るための戦略
・価値を顧客へ伝えるための営業・宣伝
・価値を届ける流通
・価値を渡す販売
wikipedia「マーケティング」より
などが含まれるとのこと。
私たちの身近な例で言えば「スクールカウンセラーだより」ですね。
これもクライエント(顧客)になる可能性のある生徒や保護者に「スクールカウンセラーの価値」を伝える営業・宣伝活動の一種といえます。
スクールカウンセラーは生徒や保護者から直接お金を貰ってはいないので、営業という言葉に違和感を覚えるかもしれません。
でも、生徒や保護者にスクールカウンセラーの価値が届かなければ、相談に来ようとは思いません。
そして、相談件数が少なければ、学校としても「スクールカウンセラー意味ないんじゃない?」という話になり、教育委員会に話が伝わって「それならスクールカウンセラーの予算は減らすか~」とか「高いお金で有資格者雇うより無資格の人を安く雇おう」ということになりえるのです。
それはスクールカウンセラーの懐に入る「お金」に直結していきます。
まぁ「スクールカウンセラーの予算」が減らされなくても、あなた個人が切られる…ということもありえますが…。
半ば事務仕事としてこなされがちなスクールカウンセラーだよりですが、スクールカウンセラーがスクールカウンセラーとして機能し続けるための営業として非常に重要なことなのです。
スクールカウンセラーだよりをできるだけ「手間なく」「おしゃれに」作りたい方は、スクールカウンセラーだよりに役立つツールをまとめたページもご参照ください↓↓
マーケティングをしないことで起こっていること
マーケティングが何かは分かったけど、
それって開業している人だけすればいいんじゃない?
と思う人もいるかもしれません。
しかし、マーケティングを意識しないことが臨床心理士・公認心理師の待遇をどんどん悪くしていると考えられます。
まずそもそも「心理業務」の専門性が伝わっていないことが、公認心理師Gルートの受験資格問題で明らかになっています。
臨床心理士と公認心理師ダブルホルダーの方々は、Gルート受験をしようとする方、あるいはGルートで合格した方に対して「そんなの心理業務じゃない」と指摘していますが、今になってわざわざ指摘しなければならないほどに「私たちが何をしてきたか」「心理職が何をしているか」についてこの30年間臨床心理士が伝えられていなかったという1つの証左と言えるのではないでしょうか。
心理業務の価値や専門性が十分に伝わっていないということは、「これくらい他の人でもできるよね」と、公認心理師の仕事のパイが簡単に奪われる危険性につながるのです。
また、我々の倫理観を超えたカウンセリングを提供する無資格カウンセラーの問題もあります。
(倫理を守って適切なカウンセリングを提供している方もいらっしゃいますが、ここでは「倫理なんて無視!」という「悪徳カウンセラー」に限って話をしますのであしからず)
こちらも臨床心理士の方が一生懸命に批判していますが、なぜ彼らが維持されているかと言えば、圧倒的にマーケティングがうまいからだと思います。
彼らのクライエントはただのクライエントではありません。「ファン」です。
例えば、ディズニーファンに対して
ウォルト・ディズニーは実は差別主義者だから、ディズニーは良くないんだよ!
と問題点を伝えても、おそらく反発を受けるだけでしょう。
なぜなら、ディズニーファンはディズニーというブランドや世界がとっても好きだから。魅力の方が上回るし、代替物がないのです。
悪徳カウンセラーも独自のブランドや世界観を築き上げていて、その世界に魅了された人で稼いでいます。
そのため、むしろ指摘をすればするほど、私たちは反発を受け、悪者になり、彼らを正義の立場に置き、「より良いもの」に仕上げてしまいます。
心理職って怖くていやぁ~ねぇ~
とコソコソ言われて終わりです。
我々のクライエントとなる人は増えず、仕事は増えず、一般の人には「なんか怖いかも」という悪評だけが流れてしまいます。
結果として「儲からない」「稼げない」で、「生活が苦しい」と喘ぐ心理士(師)が増えてしまうのです。
私たちが安全にカウンセリングを受けられるクライエントを増やそうと思うならば、別のところのファンになっている人を無理やり宗旨替えさせる努力ではなく、私たちのファン層を生み出す必要があると思われます。
そこに必要となるのはやっぱりマーケティングなのです。
「休日を楽しみたい→ディズニーランドだ!」という感覚で、「病気になった→病院行こ」っていうくらい、医師・看護師のファンって多い。
そんな感覚で「臨床心理士・公認心理師」のファンを増やしたいというお話です。
「儲からない」と嘆く臨床心理士・公認心理師がマーケティングを苦手とする理由
資格で売ろうとしちゃう
臨床心理士や公認心理師がマーケティングを苦手とする理由の1つ目は「資格で売ろうとする」ところかな…と思います。
臨床心理士や公認心理師が自分をアピールする時に
・臨床心理士は信頼できる資格
・公認心理師は国家資格なので安心
など、資格名でアピールしているのをよく見かけます。
でも、資格名だけ言われて信頼できるか…ってかなり難しいと思うんです。
例えば、「私は調理師免許を持っています!」と言われても、その人が本当に美味しい料理を作れるのかって分からないと思うんです。
大切なのは資格や免許ではなく「その人が何を提供できるのか」をはっきり示すことなんだと思います。
実際、臨床心理士・公認心理師の資格保有者が、自分のカウンセリングや教育分析・スーパーバイズをしてくれる人を探すときだって「資格があれば安心!」とは思っていないはず。
自分の価値をアピールするのが怖い
臨床心理士や公認心理師がマーケティングを苦手とする理由の2つ目は「自分の価値をアピールするのが怖い」という点です。
なんとなく
良くなるのはクライエントさんの力だから、セラピスト(カウンセラー)が自分の能力や価値をアピールするのはちょっと…
という考えがマーケティングへの抵抗感を生んでいる気がします。
もちろん、この考え方は私にもありますし、間違ってはいないと思うんです
ただ、これを聞いた一般の人々が「臨床心理士や公認心理師は話を聴くだけで何もしないらしい。それなら導いてくれるカウンセラーのところの方がいい。『治します!』って言ってるカウンセラーの方がいい」と思うこともまた自然だと思うのです。
確かに我々が「良くしてあげる」とか「導く」という売り方は違うかなぁ…とは思います。そこで戦うのは違う。
じゃあ、私たち臨床心理士や公認心理師は何を売っているのか。
私なりの回答としては、「臨床心理士や公認心理師のサービスは“自分らしくいられる”ことを売る」んだと思います。それは面接の時間・空間かもしれないし、あるいは技法かもしれない。医療や福祉の力を借りることを提案するかもしれない。そういう具体的なことじゃなくて、ただそばにいることもかもしれない。
その人自身や環境、文脈あらゆるものを鑑みて、サービスを提供できる柔軟さが臨床心理士や公認心理師の強みだと思うんです。
また、臨床心理士や公認心理師は「ギャンブルをしない」という点も魅力だと思っています。
かつて「心理士(師)は倫理に縛られて、柔軟にクライエントを見られない」という方がいましたが、私は全く真逆で、心理職はめちゃくちゃ柔軟にクライエントを見ていると思うし、幅広く対応していると思います。
ただ、サービスの幅が広すぎて放っておくと、めちゃくちゃになるから「ここから先は超えるなよ」っていう限界設定をしてあるんだと思うんですよね。
そして、その限界を超えると「ここから先は効果あるかもしれないが、クライエントのリスクが大きすぎる」というハイリスク・ハイリターンなギャンブルになってしまうんだと思います。しかも、コストは全てクライエント持ちです。
だから、倫理を外れたカウンセリングで「効果があった」という人も現れるけれど、めちゃくちゃに、取り返しがつかないほど傷つく人も現れる。
私たち心理士(師)のサービスの魅力はそんなギャンブルをしないことにあるんじゃないかと私は思っています。
あなたは臨床心理士や公認心理師にどんな価値を感じて、何を売っていますか?
まずはこの問いにしっかり答えられることが、臨床心理士や公認心理師の価値をアピールするための第一歩だと思います。
これを具体的に言葉にできれば、「資格があるから」という抽象的な言葉ではなく、もっと具体的にクライエントの心に響くアピールができるのではないでしょうか。
心の問題を扱って稼ぐのが倫理に反している気がする
臨床心理士や公認心理師がマーケティングを苦手とする3つ目の理由が「心の問題を扱って稼ぐのが倫理に反しているように感じる」という点です。
ただ、最近、私はマーケティングをしないことの方が倫理に反しているように思っています。
私たちは「クライエントさんが困ったら来ればいい」という待ちの姿勢が得意です。
しかし、私たちの元に辿り着くまでにクライエントさんは「〇〇協会認定不登校専門カウンセラー」「HSPカウンセラー」「毒親カウンセラー」など、マーケティングが得意なカウンセラーに引き抜かれていきます。
もちろん、それで良い結果につながればOK。でも、トラブルに巻き込まれた場合に傷つくのもクライエントさんなのです。
自分たちが待ちの姿勢を取っておいて
どうしてそんなところに相談に行くの?
臨床心理士や公認心理師の資格を持っているカウンセラーなら安全なのに
だって、私たちが存在や価値をアピールしていなかったんですから。
クライエントを危険に晒さないためにも、マーケティングで私たちの存在を知らせていくのは極めて倫理的な行為なのではないでしょうか。
「臨床心理士や公認心理師なら質の良いサービスが提供できる」というなら、堂々とマーケティングをして、堂々と「いいカウンセリングあるよ~」と招いて、サービスを提供して相応の対価をいただいてちゃんと儲ける。
それでいいんじゃないかと思います。
その自信さえもないなら、やっぱり資格に価値なんてない…ということになるのではないでしょうか。
おわりに
なんとなくTwitterでは臨床心理士や公認心理師(いわゆる心理クラスタ)が「敵」を見つけては「クライエントさんのため!」という名目で荒ぶっている割に、
「クライエントさんに臨床心理士や公認心理師の価値や魅力を何一つ伝えられていないのではないか」
「むしろ、『臨床心理士や公認心理師って怖い』『臨床心理士や公認心理師ってなんかグチグチうるさい』と感じさせているのではないか」
と思って書いてみました。
もちろん、問題のある人を指摘している心理士(師)の方が、臨床心理士や公認心理師の価値や意味を広めようとしているのは分かっています。
ただ、「ターゲットとしているクライエントさんに届く形になっていないのではないか」「臨床心理士や公認心理師が仲間うちで承認し合うだけの独り善がりの形になっているのではないか」と懸念しています。
私もクライエントさんのために臨床心理士や公認心理師の価値がもっと伝わればいいな…と思っています。
臨床心理士・公認心理師以外の「カウンセラー」がどんなマーケティング手法を取っているのかを知れる本がこちら。
Twitterで見かける民間カウンセラーさんの行動の意味がかなり分かったし、自分自身に不足している姿勢も見えてきました。
でも「ここはやっぱり受け入れられない。私にはできない…」という部分も多かったです。
モヤモヤ悩みながら、「自分はどういうカウンセラーでありたいか」「自分を知ってもらうにはどうすればいいか」を探れる本です。
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