スクールカウンセラーと自殺;「死にたい」と訴える子にSCは何ができるのか

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SCの知識や技術

スクールカウンセラーとして勤務していると、自殺を考える子、あるいは実際に自殺未遂した子と出会います。

相談に来た子どもの気持ちに寄り添うのがスクールカウンセラーの役割。

でも「死にたい」という気持ちに寄り添うことには抵抗感が生まれるのではないでしょうか。

また、安易な「死にたいんだね。分かるよ」という共感は、かえって相談に来た子どもを傷つけかねません。

今回は私がスクールカウンセラーとして「自殺」とどう向き合っているかをお話しします。

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スクールカウンセラーは「自殺は本人の意思ではない」と理解すべし

まずお伝えしたいのが「死にたい」は決して本人の意思ではない、ということです。

「死にたい」という言葉は、まるで本人が「死」を望んでいるかのようですが、実際に「死にたい」と言っている時の子どもは別の人格に乗っ取られていると考えて良いように思います。

私たちの前に現れるクライエントさんは、基本的に2つの自己を持っています。

病的な自己(死にたい自分):「死ぬことで一気に今の苦痛から逃れたい」という自己

健康な自己(生きたい自分):死を選ばずに苦痛を抱えながらもなんとか生きて行こうとする自己

クライエントにとって、人生が苦痛であることに変わりはありませんが、健康な自己が現れている時には「しんどいけど、このゲームをしていたら楽しい」「推しに会うまでは死ねない」など、多少前向きな言葉も聞けるものです。

しかし、健康な自己は一瞬にして「病的な自己」に塗り替えられることがあります。

・親に叱られた

・彼氏と喧嘩した

・テスト前

・生理前

・低気圧

など、ほんの些細なきっかけで、一気に病的な自己が憑依し、「死にたい」が頭の中を駆け巡るのです。

健康な自己が現れている時は「生きたい」と思っているので、「死んではいけない」という言葉も届きます。

しかし、病的な自己に憑依されたら「死んではいけない」なんて言葉は空疎に響くだけです。あまり効果はありません。

「死にたくなったら〇〇しろ」も、病的な自己にコントロールを奪われているため、意識的に対応するのは難しくなります。

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自殺を考える子にスクールカウンセラーができることとは?

自殺の実行リスクを評価すること

自殺を考える子に対してスクールカウンセラーが最優先に行うべきは、自殺実行のリスクを評価することです。

自殺のリスクについて「SAD PARSON」と呼ばれる指標があります。これは自殺リスクを高める要因の頭文字を取ったものです。

・S(Sex:性別)女性は自殺企図が多いが、男性は致死的な方法を選んで完遂しやすい傾向がある

・A(Age:年齢)10代と高齢者が多い。

・D(Depression:うつ病)うつ病を抱えている方は自殺のリスクが高い

・P(Previous attempt:自殺未遂歴)自殺未遂をすると当然ながらハードルが下がってしまうため、リスクが高まる

E(Ethanol abuse:アルコール依存)アルコール依存症の方は自殺のリスクが高い

・R(Rational thinking loss:合理的思考の欠如)妄想などが生じていると自殺のリスクが高まる

・S(Social supports are lacking:社会的サポートの欠如)社会的に孤立していると自殺のリスクが高まる

・O(Organized plan:計画性)具体的に計画されている自殺念慮はリスクが高い

・N(No spouse:配偶者不在)離婚・別居・死別は自殺リスクを高める

S(Sickness:病気)回復の見込みがない慢性疾患などは「死んだほうがまし」という思いを強める

アルコール依存や配偶者不在などは、生徒のリスク評価にはそぐわないのですが、それ以外の部分については参考になると思います。

これらをもとに「自殺のリスクが高い」と判断した場合は、学校のフローに応じて先生方にお伝えし、保護者にも報告することになります。

もっと自殺のリスクについて詳しく知りたい方はこちらをどうぞ。

佐藤セイ
佐藤セイ

タイトルだけ見ると記録の書き方のハウツー本のようですが、自殺や他害、思考や知覚の程度など、クライエントを評価する様々な視点が掲載されています。

先ほどの「SAD PARSON」もこの本を参照しながら取り上げました!

アセスメント力を向上させたい方におすすめです。

健康な自己と病的な自己

それでは「今すぐに自殺する訳ではなさそうだ」という場合にはどうすればいいのでしょうか。

そういう時にスクールカウンセラーができるのは、自殺を考えている子の健康な自己に働きかけて、死を誘い掛ける病的な自己と一緒に闘うことだと思います。

「健康な自己(生きたい自分)」と、「病的な自己(死にたい自分)」の話をすると、多くの子どもは

確かにそんな感じかも…

と納得してくれる印象があります。

もちろん、ピンとこない子もいますが、ピンとこない子には「どこがしっくり来ていない感じする?」など問いかけて、その子のイメージを探り、ピンとくる言葉や例えを探していきます。

「死にたい」という気持ちをその子自身の意思ではなく、「死にたい自分に乗っ取られている状態」と理解すれば、「死にたい自分に乗っ取られた時には自分ではどうにもできないよね。家族の方や先生にも『死にたい自分がいる』ってことをお伝えしたら、死にたい自分に乗っ取られて行動してしまう〇〇さんのことを止めてもらえるし、生きたい自分が戻ってくるまで守ってもらえると思う。だから私は家族の方や先生に『死にたい気持ちがある』ってことを伝えておきたいけどどう?」と、保護者や先生方に自殺念慮があることを伝える抵抗も薄れるように思います。

死にたい自分に憑依されれば自分の力で祓うのが難しいのは、本人が一番よく知っているし、それを止めるには他人の目が必要なのも分かってくれるから。

佐藤セイ
佐藤セイ

もちろん、「死にたい」が生まれた原因にもよるけれど。

家族や先生由来の「死にたい」だとしたら、伝える先や伝え方はもっともっと慎重に考えないとかえって「死にたい」を強めてしまうリスクがあります。

本人の心と身体を守るために情報を共有する…というのは支援者の鉄則。

「死んではいけない」ではなく「死んでほしくない」

スクールカウンセラーをはじめ、周囲の人が自殺を考える子に言えることは「死んではいけない」ではなく、「死んでほしくない」という言葉だけだと思います。

自殺まで考えるほどに追い詰められている子は、多くの場合、自分の心や身体に対する自分の権利が奪われている状態だと思います。

「家族からの暴言や暴力を受けてきた」

友人関係で常に場の空気を読んでいる」

「いじめによる被害を受けてきた」

…背景は様々ですが、自分の人生を自由には生きられない経験を重ねてきたはずです。

そのような子に「死んではいけない」と、さらにその子を縛りつけるような言葉をかけても、それは苦痛にしかならないように思うのです。

また、「なぜ死んではいけないのか」と言い返されて、正しく答えられる人もいないように思います。

だとすれば、私たちにできることは「私はあなたに死んでほしくない」と自分の気持ちを伝えることだけなのではないでしょうか。

健康な自己の「生きたい」を信じて、万が一の時に自分の「死んでほしくない」をもしかしたら思い出してくれるかもしれないと願いを込めて。

いつも一緒にはいられないスクールカウンセラーだから、せめて彼や彼女の心の中に存在できるように真摯に語り掛けるしかないんじゃないかな…と感じています。

佐藤セイ
佐藤セイ

生きる権利が奪われているのに、死ぬ権利さえも奪うのは酷い。

私たちができるのは願うことと「生きる」を邪魔している要因をできるだけ減らしていくことです。

最後に

私たちは人がより良く生きるための支援をするのが仕事だと思います。

もしかしたら、「より良い人生」のために「死」を必要とする人もいるのかもしれない。それさえも受容しなければならないこともあるのかもしれない。

私は未熟なのでそこまでの境地には達せていません。エゴかもしれないけれど、その人のほんのわずかな「生きたい」を信じて、支えていくことしかできないな…と思います。

自殺への対応について考えたい方は「『死にたい』と言われたら」もおすすめ。

佐藤セイ
佐藤セイ

「そもそも自殺はダメなこと?」など、根源的なところから書かれており、自殺(未遂)への見方が広がります。

スクールカウンセラーの自傷行為への対応については以下の記事をぜひお読みください。

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