臨床心理士みたいなやりがいのある仕事なら、
「辞めたい」と思うことはないのかな?
いや、辞めたいと思うことはめっちゃありますよ!
2~3日に1回は「もう辞めようかな」とつぶやいてますよ。
今回は1000回以上「臨床心理士を辞めたい」と思いながら、それでも辞めていない臨床心理士が、
・なぜ臨床心理士を辞めたいのか
・それでも臨床心理士を辞めない理由
についてお話しします。
なぜ臨床心理士を辞めたいのか
ストレスが大きいから
臨床心理士に限らず、対人援助職は人の心・身体・人生を支える責任の重い仕事です。
そのため、時にはその責任に押しつぶされそうになりますし、クライエントさんが抱えた途方もない苦痛の世界を前に「何もできない」と無力感を抱くこともあります。
また、多くの人は、対人援助職を単なる「仕事」としては見ていません。
・人のために自分を犠牲にできる人
・何でも言うことを聞いてくれる人
・何をしても怒らない人
など、勝手に神や天使のようなイメージを押し付けてくることもあります。
そのイメージが壊れた時に「そんなに冷たい人だと思わなかった」「結局はお金なのか」など、職業としての面だけでなく、人としても貶められてしまうため、
人のために頑張っているのに、どうしてこんなに罵られないといけないのかな…
とつらい思いをすることもあります。
また、「援助される人(クライエントさん)」は、助けられたことに必ずしも喜んだり、感謝したりするわけではありません。むしろ、助けられたからこそ、助けた人に対して「怒り」を向けてくることもあります。
それを端的に示したのが、下の「鶴の逆恨み」という動画です。暇な方はご覧ください。
「援助者」が「被援助者」から被害を受けることは多々あります。
実際にいくつかの事件も起きています。
大変な割に給料が低いから
ストレスが大きい割に給料が低いのも「辞めたい」という気持ちに拍車をかけます。
世間一般から見ると臨床心理士の仕事は「マイナスをゼロにする仕事」です。もちろん、臨床心理士にとってはクライエントさんの可能性を引き出してプラスを生み出しているのですが、資本主義社会では何かを「生産」しなければ、その価値を見出してもらえないのが現状です。
そのため、「何も生産していない」臨床心理士への報酬は低いものとなりがちです。なんなら、「スーパーやコンビニでバイトした方がまし」ということもあります。
この臨床心理士の「お金」や「生産性」の問題を描いているのが東畑先生の「居るのはつらいよ」かな…と思っています。
「ガクジュツ書」ながら、小説仕立てで物語が進むため、サクサク読めます。
しかし、内容は充実。臨床心理士(あるいは公認心理師)として働く上で知っておきたい、資本主義と心理職(対人援助職)の苦しい兼ね合いが描かれています。
自分の傷と向き合い続けることになるから
多くの人は生きていく上で、多少傷ついたとしても、お酒やタバコで気を紛らわし、忙しい日々を過ごすうちに、いつしか傷を忘れていくものです。
しかし、臨床心理士は仕事柄、自分の傷つきから目を背けることが許されません。もちろん、臨床心理士をしていても飲酒や喫煙で一時的に紛らわせることはあります。それでも、忘れてしまってはダメです。
自分の「痛い」「悲しい」「つらい」という気持ちを麻痺させていると、クライエントさんの「痛い」「悲しい」「つらい」も分かりにくくなりますから。
それでも臨床心理士を辞めない理由
臨床心理士以外の自分が想像できないから
私は大学を選ぶ時点で「臨床心理士」を見据えていました。もちろん、大学院へ進学した頃にはもっと固く「臨床心理士になるんだ」と思っていました。
そのため、今から臨床心理士を辞めたとして、「一般企業に就職して働いている自分」は全く想像ができません。そんなネガティブな理由も、臨床心理士を辞めることを尻込みさせ、ここまでしがみつかせることに一役買っていたように思います。
たぶん、「新卒カードを捨てて選んだんだから」「文系なのに大学院まで来たんだから」という意識も「臨床心理士」しか見えない…という視野の狭さにつながったかもしれません。
公認心理師は学部生の頃から「公認心理師」を見据えるので、もっと手離すのが大変かもしれませんね…。
臨床心理士として成長していくことが楽しいから
河合隼雄先生は「臨床心理学ノート」で臨床心理士について以下のように述べています。
(スポーツや芸術が)ほんとうにできるためには、相当の修練を必要とする。ただ、そのときに、必ずしも「理論」を知っていなくともよいということである。そして、「理論」を知っているだけでは―いくらよく知っていても―スポーツマン、芸術家として認められないこともある。これらのことは、臨床心理士の場合もそのまま通じることである。「理論」をあまり知らなくとも、有能な臨床心理士はあり得るし、理論をよく知っているだけでは、よい臨床心理士とは言い難い。
新装版 臨床心理学ノート 金剛出版 pp31-32.
また、杉原保史先生も、「技芸としてのカウンセリング入門」で、身体でカウンセリングを学ぶことの重要性を著しています。
杉原先生の本では、「声」の大きさやトーンに関する指摘が、特に印象に残っており、声に何をにじませるかを考えるようになりました。
声については松木邦裕先生もご著書に書いていたように記憶しています。
そのため、臨床心理士は「以前できなかったことが、今日はできた!」と体感できる瞬間が多く、「楽しい」「嬉しい」と感じることもたくさんあるのです。
専門性に見合った収入を得られるようになったから
臨床心理士として「見合っている」と思える収入を得られるようになったことも「辞めたい」という気持ちを払拭した大きな理由だと思います。
というのも、最初の職場では時給1000円で働いており、
これなら、近くの蕎麦屋でバイトした方がいい…私は大学院まで行って何をしてるんだ…
と思っていました。
しかし、転職によって時給3500~5000円程度の職場を確保し、同時にライターとして心理学に関する記事を執筆して、ある程度のまとまった報酬を貰えるようになると、「もうちょっと臨床心理士がんばろう」と思えるようになったのです。
すぐに転職は難しくても、ライターなどの副業は気軽に始められます。
詳しくは次の記事をご覧ください!
まとめ
ここまでの話をまとめてみましょう!
臨床心理士を辞めたいと思う背景には、
・ストレスが大きいから
・大変な割に給料が低いから
・自分の傷と向き合い続けることになるから
という3つの理由があります。
しかし、それでも臨床心理士を辞めない理由としては、
・臨床心理士以外の自分が想像できないから
・臨床心理士として成長していくことが楽しいから
・専門性に見合った収入を得られるようになったから
の3つがあります。
大学院生の頃は、よく「『バンドマン』で食べていくのと『臨床心理士』で食べていくのと、そんなに差はないんじゃないか」という議論をしていました。
結局のところ、バンドマンにせよ臨床心理士にせよ、キラキラしたイメージだけでなく、「どうやって生きていくか」を真剣にリアルに考えることが大切なんじゃないかと思います。まずは情報戦に勝ちましょう!
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