他職種からGルートで公認心理師を取得したけれど、心理職の人が言う「スーパービジョン」がいまいちよくわからない…。
1人での業務に不安を感じる…。
「スーパービジョン」を受けたいけど、具体的に何から始めればいいの?
心理支援の専門家にとって、技術・資質の向上に不可欠なスーパービジョン。
でも、実際のスーパービジョンがどんなものか、なかなかイメージしづらいですよね。
この記事では、SVに関して次の4つを知ることができます。
- スーパービジョンの種類
- 領域別SVの仕組み
- 個別にSVを受けるときの流れ
- SVの注意点
そもそもスーパービジョンって何?
という方はもちろん、
自分がいま取り組んでいる支援に対して、
誰に・どのようなアドバイスをもらえばいいの?!
そんな悩みを抱えている人必見です。
臨床心理士・公認心理師が受ける「スーパービジョン」とは?
スーパービジョン(supervision:SV)とは、
・スーパーバイザー(指導者:新たな視座を提供する者)
・スーパーバイジー(指導を受ける者:新たな視座を受けとる者)
の2人で取り組むもの。
東畑開人さんの「日本のありふれた心理療法」では、次のように説明されています。
スーパーヴィジョンとは、スーパーヴァイジーと呼ばれる、しばしば初心の心理臨床家が自らの実践について、スーパーヴァイザーと呼ばれる熟練した心理臨床家から助言・監督・支持を受ける契約された専門的関係の営みである。
東畑開人(2017)日本のありふれた心理療法 ローカルな日常臨床のための心理学と医療人類学 p90
スーパービジョンは、心理臨床家が専門家としての資質の向上を目指すための訓練方法なのです。
さて、ここに登場する「心理臨床家」とは何か。
さまざまに議論されていますが、臨床心理学の知識・技術を身につけた上で、クライエントの「生き方」や「いのち」に寄り添う専門家といえそうです。
皆藤章(2018)「心理臨床家のあなたへ」より
【人数別】スーパービジョンの種類
スーパービジョンには個人と集団の2種類があります。
個人スーパービジョン
「個人スーパービジョン(以下:個人SV)」とは、スーパーバイザーとスーパーバイジーが1:1で取り組むSVです。
個人SVのメリットは主に次の2つです。
個人SVのメリット①:スーパーバイザーとじっくり話せる
個人SVでは、自分とスーパーバイザーだけの時間と場所がしっかり確保されます。
そのため、
・自分の思い・考え・疑問をスーパーバイザーに多く投げかけられる
・スーパーバイザーからもたくさんのフィードバックがもらえる
という2つのメリットがあります。
これらにより、自分の事例への理解を深めることができます。
私たちは、1人(あるいは1組・1家族・1グループなど)のクライエントさんと取り組んでいる心理療法を「事例」や「ケース」と呼んでいます。
個人SVのメリット②:1つの事例をじっくり見つめられる
また、1つの実践についてじっくり掘り下げることによって、
・心理職としての自分の援助方針のあり方
・これまで事例に対して気づけなかったこと(自分の盲点や思い込み)
などに気づけるようになります。
個人SVは1つ1つの「事例」はもちろん、「心理職としての自分自身」もじっくり見つめ直す機会なんだね。
集団スーパービジョン
集団スーパービジョン(以下:集団SV)とは、スーパーバイザー1名に対し、スーパーバイジー複数人で取り組むSVを指します。各自で持ち寄った検討点に対し、スーパーバイザーも含めて全員で意見を述べていきます。
集団SVのメリット①:支援や援助の視野が広がる
集団SVでは、スーパーバイザーの意見だけではなく、ほかの心理職からも意見がもらえます。
そのため、自分1人で考える以上にたくさんのアイデアに触れることができ、支援や援助の視野を広げられます。
集団SVのメリット②:ほかの人の事例を聞いて経験値を高められる
私たちは限られた人数のクライエントさんとしかお会いできません。しかし、集団SVでは、ほかの人のケースが聞けるため、模擬的ではありますが自分の経験する事例数を補うことができます。
対応する事例数が少ない心理職にとって、ほかの人の事例を聞いて事例数を重ねることは経験値の向上につながります。
集団SVは、自分だけでは得られない視点や経験を得る機会になりそう。
【領域別】スーパービジョンの仕組み
領域によってSVの仕組みそのものが大きく変化することはありません。
ただし、職場によって、
・SVが勤務時間内に設けられているか
・心理職同士のSVがあるか
・職場外の専門家に意見を求めることができるか
など、細かい制度の違いがあるようです。
それでは、それぞれの領域におけるスーパービジョンを見ていきましょう!
医療領域のスーパービジョン
医療領域では、複数の医療従事者とともに集団SVを行う職場が多いようです。
医療の現場では、医師や看護師はもちろん、
・リハビリスタッフ:理学療法士・作業療法士・言語聴覚士など
・ソーシャルワーカー:精神保健福祉士・社会保健福祉士など
…など、さまざまな専門性を持つ人が働いています。
医師以外の医療スタッフを「コ・メディカル」と呼びます。
医師がスーパーバイザー、心理士がスーパーバイジーとしてSVが行われるケースもあります。
心理職が複数いる職場では、心理職のみのミーティングが行われ、事例の検討とともにSVとして先輩から助言をもらうこともあるようです。
司法領域のスーパービジョン
司法領域の心理専門職に対しては、SVの仕組みが制度として設けられています。
入職から2年間は担当の上司と個人SVを行います。この仕組みにより、心理面接の技能を向上させていくのです。
地方の鑑別所では地方大学教員との連携を図っている現場もあり、大学教員との連携の中でSVを依頼するケースもあるそうです。
刑務所で処遇カウンセラーの仕事をしていたときは、月に数回、外部から認知行動療法や精神分析など様々な知識を持つスーパーバイザーが来ていました。
受刑者さんと関わっている姿をマジックミラー越しに直接見ていただいた上でのスーパービジョンなので、資料を用意しなくていいのはラクでしたがドキドキでした…。
福祉領域のスーパービジョン
児童相談所職員は「スーパーバイザー義務研修」を受けている職員から個人・集団SVを受けることが可能です。
一般企業の心理職は、職場の研修制度としてSVの時間が設けられているところもあります。
私も企業が運営する療育施設で勤務しているときは、外部のスーパーバイザーによるSVを数か月に1回程度受ける機会がありました。
「無料のSV!なんて贅沢な…!」と思って、めっちゃ積極的に受けていましたね。ありがたい。
教育領域のスーパービジョン
地方自治体にもよりますが、スクールカウンセラーとして働いている方を中心に、各校の関係者が定期的に情報共有や話し合うを行う機会があります。
都道府県臨床心理士会・公認心理師会に所属している場合、
・学校臨床心理士部会
・スクールカウンセラー部会
という名前のグループがあり、そこで研修やSVを受けられることもあるね。
大学の教員とともにSVをする仕組みや制度が設けられている自治体もあります。
また、茨城県守谷市のスクールカウンセラーとして活躍している半田一郎先生は、スクールカウンセラーがケースに不安を感じたときに気軽に相談できる仕組みづくりに努めておられます。
スクールカウンセラーの仕事は、あらゆる相談に対応しなければならない高難易度。
なのに、1人職場でつらくなることも。
リアルでもネットでもいいので、守秘義務を守りつつ、安全・気軽に相談できる場所があるといいですね。
産業領域のスーパービジョン
日本産業カウンセラー協会では、協会スーパービジョン制度が行われています。
初めてSVを受ける方は、支部に連絡すると適切なスーパーバイザーを推薦してもらえます。
産業領域は未経験のため、情報が不十分です…。知っている人いたら教えて…。
産業領域の心理職の働き方については、下のブログをお読みください!
個別にスーパービジョンを受けるには?
心理職として働いているうちに、
このケース、どうしたらいいの…!?
うちの職場にはSVが充実していないよ…
職場の外からの意見を聞いてみたい!
という気持ちがわいてくるのことは当然のことです。
ここからは「個別にSVを受けたい!」と考えられている方に、申し込みの流れに沿ってご説明していきます。
STEP1:スーパービジョンの申し込み
スーパーバイザーを選ぶ
スーパーバイザーの考え方や得意な療法
SVを受けたいと思ったら、まずはどんな先生からの指導を受けたいかを検討しましょう。
先生によって考え方や得意としている療法が異なっているからです。
色々な人の著作や論文などをよく読み、心理療法のスタイルや考え方に触れ、自分にしっくり来るスーパーバイザーを選んでみましょう。
スーパービジョンが行われる場所までの距離
スーパービジョンの多くは、スーパーバイザーが指定した場所へスーパーバイジーが出向くことになります。通っても負担のない距離かどうかも考えておきましょう。
ただし、コロナ禍を経て「オンラインでのSV」に対応している人も増えています。「遠方だけれども、どうしてもお願いしたい」という場合は、相談してみても良いでしょう。
スーパービジョンの費用
個別にスーパービジョンを受ける際には、費用がかかります。
スーパーバイザーによって異なりますが、1時間あたり5,000円~15,000円ほどかかるのが一般的です。
学生には割引を用意していたり、それぞれの事情に応じた値段設定をしていたりするスーパーバイザーもいます。
スーパーバイザーをお願いする
スーパーバイザーをお願いするときには、様々な方法があります。
・大学院の指導教員から紹介してもらう
・同じ職場の人から紹介してもらう
・スーパービジョンを提供する機関に申請する
・SVを希望する先生に思い切ってメールやDMをする
自分で「この人」と選ぶ場合もあれば、条件を伝えて「この人が良いですよ」とおすすめされる場合もあります。
STEP2:スーパービジョンの事前資料作成
SVを受けることが決まったら、ケースの記録をまとめていきましょう。
特に検討したい部分は以下の3つです。
ケースの概要
特に指定がない場合、だいたいA4サイズ2ページ程度で収まるように情報を厳選しましょう。
ケースに関する情報を絞り込むことで、問題点がぐっと浮かび上がりやすくなります。また、情報の取捨選択を繰り返すうちに、自分が何にひっかかっているのか気づくこともあります。
膨大な資料やデータをまとめ上げるのは非常に大変な作業ですが、ケースをまとめている段階からSVは始まっているのです。
自分のクライエントへの向き合い方
資料をまとめる段階で、自分がどのようにクライエントと向き合っているのかを言語化していく作業にもあわせて取り組みましょう。
・クライエントにかけた言葉の背景にある自分の考え
・クライエントの言動に対する自分の気持ち
・お互いの沈黙のなかで考えたこと
など、自分の心の動きまで思い起こしながら、まとめていきます
自分の考えを言語化し、人に伝えられる形にすることではじめて、SVで議論できるようになります。
「自分の心」を商売道具として使っていく以上、「自分の心」のことはしっかり理解しておかないと、自分が傷つくだけでなく、クライエントさんも傷つけます。
もちろん、使って消耗させるだけじゃなくて日々のケアも大事ですぞ!
治療でどうなっていくことを目標としているのか
心理職は行き当たりばったりで、カウンセリングや支援に臨むわけではありません。
クライエントさんの状態を観察し、これからどんな支援を行うべきなのかを示した「見立て」と呼ばれる治療方針をもとに、関わっていきます。
SVの資料を作成するときには、
・自分が何を「目標」「ゴール」と考えているのか
・「見立て」や「ゴール」をクライエントさんと共有しているのか or 自分で考えているだけなのか
などもはっきり記載しておきましょう。
そのほかの注意点
スーパーバイザーによっては、クライエントと話した内容について一字一句すべてを記録した「逐語録」を用意するよう指示されることもあります。
クライエントさんに了解を得た上で録音し、文字起こしする場合もあれば、自分の記憶だけを頼りに、とにかく書き起こすこともあります。
クライエントさんの話をじっくり聴くスタイルの精神分析やユング派などでは、クライエントさんから許可を得たとしても「録音されている」という事実が話しにくさにつながるため、録音はしないのが一般的です。
ある程度、治療のテクニックが確立されている認知行動療法では、SVのために録音するケースも多いかも。録音データそのものでSVが実施されていることもあるようです。
細かい検討点に関しては事前のやり取りで指定されます。
事前準備を心ゆくまで行いましょう。
STEP3:スーパービジョンを受けた後
学んだことの振り返り
SVに参加した後は、
・ケースについて自分が何を学んだか
・学んだことをどのように活用していくか
を十分に検討しましょう。
スーパーバイザーとの相性の振り返り
SVにおいてスーパーバイザーとの相性はとても大切です。
・なんとなく話しにくかった
・相談したいことがなかなか言い出せなかった
・感覚が合わなかった
など、違和感を覚えたら
なぜスーパーバイザーと自分が合わないと感じたんだろう?
と考えてみましょう。
スーパーバイザーと自分との「ズレ」から、心理臨床家としての自分が大事にしたい考え方や価値観に気づけるかもしれません。しっかりと「自分」に向き合い、心理療法に生かしていきましょう。
一方で、自由に話しにくい感覚が強い場合は、スーパーバイザーによる「パワハラ」や「モラハラ」が原因かもしれません。
・「とにかく私の言う通りにしていればいい」と主張する
・まとめた資料を読んで、鼻で笑ったり、ため息をついたりする
・質問すると「そんなこともわからないのか」と責める
など、スーパーバイジーの自信を失わせ、自分が上位に立とうとするスーパーバイザーも残念ながら存在します。自己成長につながらないSVは、ただただ自分の心身やお金にとって負担になるだけです。
しかし、スーパーバイザーという権威者から責められると「自分がダメだから…」「自分が未熟だから…」と原因を自分に探してしまい、なかなか「SVをやめる」と決断できないかもしれません。
まずは身近な人に相談してみましょう。自分ではわからなくなってしまった「暴力性」や「攻撃性」を指摘してもらえる可能性があります。
SVで痛いところを突かれるのはよくあることだけれど、その痛みを成長に変えるのがSV。
痛いところに追い打ちをかけて「キミが未熟だからだ」とさらなる痛みを与えるのはSVとは言えない。どっちかと言えば「SV」ではなく「DV」なのである。
さいごに
まとめ
ここまでの話をまとめてみます。
■スーパービジョンとは「スーパーバイザー」と「スーパーバイジー」の2人で行う心理職の訓練方法のひとつ。
■スーパーバイザー1人に対し、スーパーバイジー1人で受ける「個人SV」と、スーパーバイザー1人に対し、複数のスーパーバイジーで受ける「集団SV」がある。
■心理職が活躍する5領域すべてでスーパービジョンは実施されている。
■個別のスーパービジョンでは
・スーパービジョンの申し込み
・スーパービジョンの資料作成
・スーパービジョンの振り返り
の3ステップが大事。
SVに対しての不安感は低減したでしょうか?
職場の上司や同僚だけでなく、様々な領域を経験したスーパーバイザーから意見をもらえるのは、非常に貴重な経験になるでしょう。
心理職としての働き方・専門性の高め方について、行動しながら考え続けていきましょう!
応援しています!
【おまけ】スーパービジョンに関するおすすめ本
「スーパービジョンとは何か」を学問的に考える「京都大学大学院教育学研究科臨床実践指導学講座」の方々がまとめた、「心理臨床実践におけるスーパーヴィジョン」はおすすめ。
他者のSVをかいま見る機会はなかなかないですが、この本では皆藤章先生のスーパーバイジーによるSV体験記も掲載されていて興味深いです。(ユング派のSVなので、CBTなどのスタイルとは異なると思いますが、それはそれで面白いかも)
ただ、Amazonでは現在在庫切れです。図書館などで見かけたらぜひ。
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