臨床心理士や公認心理師の資格勉強をしていると、心理支援に関連する様々な法律が出てきます。
実は、心理職はある程度法律を知っている必要があるのです…!
各領域で必要とされる法律の知識は様々ですが、どの領域で働いていても押さえておきたい法律が
・障害者総合支援法
・精神保健福祉法
の2つです。
![佐藤セイ](https://psychoblog.work/wp-content/uploads/2020/08/IMG_qn2rzq-e1598550339437.jpg)
今回は、これら「障害者総合支援法」と「精神保健福祉法」という2つの法律を軸に、その概要や法律にまつわる福祉制度を解説していきます。
実際に福祉制度を活用した架空事例もご紹介しますよ!
心理職が知るべき法律「障害者総合支援法」とは?
![](https://psychoblog.work/wp-content/uploads/2023/11/27765559_s.jpg)
障害者総合支援法とは
「障害者総合支援法」は、障害を持つ方が基本的人権を持つ個人としての尊厳にふさわしい日常生活・社会生活を営むことをサポートするとともに、社会参加の機会を確保することを目指す法律です。
正式には「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」といいます。
この障害者総合支援法の根幹を担うのが、障害福祉サービスです。
対象となるのは、次の障害を持つ方です。
・身体障害
・知的障害
・精神障害(発達障害を含む)
・指定難病
![佐藤セイ](https://psychoblog.work/wp-content/uploads/2020/08/IMG_qn2rzq-e1598550339437.jpg)
上記の障害を持つ方のうち大人(障害者)だけが使えるサービスもあれば、子ども(障害児)だけが使えるサービスもあります。
それでは、それぞれのサービス内容を見ていきましょう。
障害者支援
成人を対象にした障害者支援は、
・介護給付
・訓練等給付
・相談支援
・自立支援医療
・地域生活支援事業
の5つです。
具体的な内容を簡単にご紹介します。
障害者(大人)のみ対象のサービス:赤字
障害者(大人)と障害児(子ども)の両方が使えるサービス:青字
介護給付
・居宅介護(ホームヘルプ):自宅での介護を行う
・重度訪問介護:重度の障害を持ち、常に介護を必要とする方に自宅・外出時・入院時の支援を行う
・同行援護:視覚障害により移動が難しい方の外出支援を行う
・行動援護:自己判断が難しい方が行動するときの危険を回避するための支援を行う
・重度障害者等包括支援:介護の必要性が高い人に包括的な支援を提供する
・短期入所(ショートステイ):介護者が病気になったときなどに、短期間、夜間も含めて施設で介護を行う
・療養介護:医療と常時介護を必要とする人に、医療機関での看護・介護・訓練などを提供する
・生活介護:常に介護を必要とする方に介護に加えて、創作的活動・生産活動の機会を提供する
・障害者支援施設での夜間ケア等(施設入所支援):施設に入所している方に、夜間・休日の介護等を提供する
訓練等給付
・自立訓練:身体機能・生活能力向上に必要な訓練を提供する
・就労移行支援:就労に必要な知識や能力向上のための訓練を行う
・就労継続支援(雇用型=A型、非雇用型=B型):一般企業での就労が難しい人に働く場を提供するとともに、必要な知識や能力向上のための訓練を行う
・就労定着支援:就労に伴う生活面の課題に対応するための支援を行う
・自立生活援助:一人暮らしに必要な理解力・生活力などを補うための課題を把握し、支援する
・共同生活援助(グループホーム):共同生活を行う住居で、相談や日常生活の援助、必要に応じて介護サービスの提供などを行う
相談支援
・計画相談支援:サービスを利用するための計画案や計画を作成したり、サービスを提供する事業所との連絡調整を行ったりする
・地域移行支援:医療機関や施設等を対処する障害者の不安を解消するために、地域移行支援計画を立てたり、外出の動向支援や住居確保、関係機関との調整を行ったりする
・地域定着支援:一人暮らしをしている障害者の方が安心して暮らせるように連絡体制を整え、緊急時に必要な支援を提供する
自立支援医療
・更生・育成医療:身体障害者・児が「障害を除去・軽減する効果が期待できる手術等の治療」にかかる医療費自己負担額を軽減する
・精神通院医療:特定の精神疾患があり、通院による治療を継続的に必要とする人の医療費自己負担額を軽減する
地域生活支援事業
・成年後見人利用制度:成年後見制度を受けるための費用補助を行う
・地域活動支援センター:障害を持つ方が創作的活動や生産活動に参加したり、社会と交流したりする機会を提供する
・福祉ホーム:住居を必要とする人に向けて、低額で居室を提供する。日常生活に必要な支援を行う
障害児支援
先ほどご紹介した通り、障害者の給付サービスの一部は、子どもも対象になるものもあります。
また、それ以外に子どもを対象とするサービスとしては、
・障害児入所支援
・障害児通所支援
の2つがあります。こちらもそれぞれ見てみましょう。
障害児入所支援
・福祉型障害児入所施設:施設に入所している子どもを保護し、日常生活の指導や知識・技能を高める
・医療型障害児入所施設:施設入所や医療機関で入院している子どもを保護し、日常生活の指導や知識・技能を高め、治療を行う
障害児通所支援
・児童発達支援/医療型児童発達支援:「児童発達支援センター」や「医療型児童発達支援センター」など地域の障害児支援拠点を設置するとともに、「児童発達支援事業」として未就学の子どもに療育の機会を提供する
・放課後等デイサービス:就学中の子どもに対し、放課後や長期休暇を利用して生活能力向上のための訓練などを継続的に提供する
・居宅訪問型児童発達支援:重度の障害などにより、外出が難しい子どもの居宅を訪問して、発達支援を行う
・保育所等訪問支援:保育所などの集団生活に適応するための専門的な支援を提供する
障害福祉サービスを利用するには?
障害福祉サービスを利用するときには、お住まいの市町村の担当窓口に申請する必要があります。
- 指定の相談支援事業所にサービスの利用計画に関する書類を作成
- 日常生活に関する認定調査
- 支給決定(受給者証の発行)
サービスの利用開始
- 担当者会議
サービスの利用状況を見ながら、利用計画の見直し
※担当者会議に心理職が参加する場合もある
障害福祉サービスの利用料金は、総額の1割負担となります(残りは公費負担)。
世帯の所得状況に応じて負担額の上限が設定されています。
心理職が知るべき「精神保健福祉法」とは?
![](https://psychoblog.work/wp-content/uploads/2023/11/27490022_s.jpg)
精神保健福祉法とは
「精神保健福祉法」とは、精神保健と精神障害者福祉について規定した法律です。精神障害を持った方の医療や保護に関する項目や社会復帰や自立を促す援助に関する項目を明記しています。
なかでも、精神障害者保健福祉手帳について規定している45条は心理職にとって絶対に知っておきたいもの。
ここでは、支援の現場でよく耳にする精神障害者保健福祉手帳について解説します。
精神障害者保健福祉手帳って何?
精神障害者保健福祉手帳とは、一定程度の精神障害の状態と認定された方が申請すると付与される手帳です。
どんな人が対象になるの?
対象となるのは、次のような精神疾患を抱えている方です。
・統合失調症
・気分障害(うつ病や双極性障害など)
・てんかん
・非定型精神病
・中毒精神病
・高次脳機能障害
・発達障害
など。
障害の程度によって、1〜3級に分類されます。
![佐藤セイ](https://psychoblog.work/wp-content/uploads/2020/08/IMG_qn2rzq-e1598550339437.jpg)
なお、知的障害の方は精神障害者保健福祉手帳ではなく「療育手帳」を取得できます
申請はどこで、どのように行えば良いの?
お住まいの市町村の担当窓口で行います。
・申請書
・顔写真
・診断書
などが必要になります。
市区町村によって異なる場合がありますので、担当窓口にお問合せください。
留意点として、申請は初診から6ヶ月以上経っていることが条件です。
また、2年ごとの更新が必要で、疾患が完治し生活に支障がなくなった場合、手帳の返却が必要になります。
手帳を取得するとどんなサービスが受けられるの?
全国一律で受けられるサービスとしては、
・公共料金の割引
・所得税、住民税の控除
などが挙げられます。
また、地域や企業によっては、
・交通機関の運賃割引
・携帯電話料金の割引
・公共施設の入場料の割引
などを提供していることもあります。
![佐藤セイ](https://psychoblog.work/wp-content/uploads/2020/08/IMG_qn2rzq-e1598550339437.jpg)
就労に関しても、企業によっては障害枠を設け、手帳を持っている方を積極的に雇用する動きがあります!
障害福祉サービスを利用した支援の事例
![](https://psychoblog.work/wp-content/uploads/2023/11/25937459_s.jpg)
ここでは、今回紹介した福祉サービスを利用した架空のケースを3つ紹介します。
ケース①:就労に不安があるAさん
Aさんは、軽度知的障害を持っている高校3年生。現在、特別支援学校の高等部に通っており、療育手帳を持っています。
アルバイト経験等もなく、卒業後の就労に不安があるため、ご両親と一緒に学校の担任の先生に相談をしました。そこで、就労移行支援というサービスがあるということを知ります。
就労移行支援では、就労に必要な知識やスキルを身につけるためのプログラムを実施しています。Aさんは、半年間の就労移行訓練をしたのちに、通信会社に障害者枠で就職が決定しました。
ケース②:医療費に悩む Bさん
Bさんは、半年前に双極性障害と診断されました。現在は、うつ状態で会社を休職しています。主治医からは、「双極性障害は慢性疾患だから、長く付き合っていく必要があります」と言われました。
2週間に1回通院をしていますが、診察代と薬代、病院までの交通費がかかります。Bさんは徐々にかさんでいく医療費に焦りを感じるようになりました。そこで、病院のカウンセラーに相談をしたところ、「自立支援医療と精神障害者保健福祉手帳を検討してみては?」との助言を受けます。Bさんはさっそく申請を行いました。両者を取得した結果、医療費や交通費を軽減することができました。
ケース③:お子さんの居場所を探すCさん
Cさんは、自閉スペクトラム障害の小学生2年生の男の子D君のお母さんです。D君は小学校に設置された特別支援学級に所属しています。
CさんはD君に学校以外の居場所を作ってあげたいと考え、スクールカウンセラーに相談しました、そこで放課後等デイサービスを紹介され、利用申請を行いました。最初こそ新しい環境に抵抗感を示していたD君ですが、徐々に慣れ、同じ障害を持つ子どもたちと、料理やスポーツ、音楽などのプログラムを楽しむようになりました。
また、Cさんも日中D君を預けることで自分の時間ができたり、デイサービスのスタッフに日頃D君に関して困っていることを気軽に相談できたりと以前よりも気持ちに余裕ができました。
福祉サービスや制度を利用する上で大切なことは他職種との連携です。
今回ご紹介した事例でも、相談を受けた先生やカウンセラーだけが何とかしようとしても話は進まなかったでしょう。就労移行支援や市区町村、放課後等デイサービスなどのスタッフと必要に応じて連絡を取り、連携したからこそ、サービス利用に辿り着いています。
相談支援専門員やソーシャルワーカー、行政職員などと連携をとりながら支援を進めることが多いため、包括的な支援を意識し、積極的に他職種のスタッフとも連絡を取りあえる関係を作ることが必要となってきます。
さいごに:心理職として法律・福祉制度を知っておく意味とは?
実際に心理職てして働いていると、心理職の仕事はカウンセリング室で面接や検査をするだけではないということがよく分かります。
クライエントさんたちの中には、
・金銭的に困難を抱えた方
・病院退院後の居場所がない方
・障害を理由に就労が続かない方
など、単なる心理面接だけでは解決できない問題を抱えた方がたくさんいます。
そんな方々の支援を行う上で、利用できる福祉制度やサービスを知っておくと支援の幅が広がります。
![佐藤セイ](https://psychoblog.work/wp-content/uploads/2020/08/IMG_qn2rzq-e1598550339437.jpg)
放課後等デイサービスや就労サービス関連の施設、グループホームなどの施設に在籍する心理職も数多くいます。
これらの施設で働く場合には、心理に関する知識だけでなく、法律・福祉制度の知識が欠かせません。
おまけ:心理職の法律・福祉制度への理解を深める資料
![](https://psychoblog.work/wp-content/uploads/2023/11/25158730_s.jpg)
心理職が知っておきたい法律・福祉制度への理解を深めるための資料をご紹介します。これらはどれも2023年11月24日時点のものです。
15歳からの社会保障
「急に病気になって働けなくなった」「病気やケガで子育てが難しい」などの事例に利用できる福祉制度が事例ごとにわかりやすくまとめられている本です。
障害福祉サービスの利用について
障害福祉サービスの内容や利用の流れについて詳しく解説されています。
こころの情報サイト 治療や生活へのサポート-障害者手帳・障害年金
国立精神・神経医療研究センターの障害者手帳に関する解説ページです。
e-GOV法令検索
行政サービスや施策に関する検索ができます。
コメント