話を聴くことの難しさ~臨床心理士はどうやって話を聴き、秘密を守っているのか~

働き方

私は臨床心理士など、心の支援をする人にとって、最も大事なことは「話を聴くこと」だと考えています

この記事では、その理由と難しさについて解説します。

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「話を聴くだけ」の専門性とは?

臨床心理士の専門性は「話を聴くこと」

臨床心理士の専門性とは何かと聞かれれば「話を聴くこと」に尽きると思います。

もちろん、「アセスメント」とか「調査」とかあるんですけど、クライエントさんが

これが臨床心理士さんなんだ・・・!

と思うのは、やっぱり「話を聴く姿勢」だと思うんです。

・質問せずに聴く

・積極的に質問しながら聴く

・事実を聴く

・夢やイメージを聴く

などなど色々な聴き方はありますが、全く話を聴かない臨床心理士はいない、と思います。

「話を聴くだけ」って難しい

話なんて誰でも聞いてくれるよ。

話すだけじゃ意味ないよ。

カウンセリングに来た方に、そんなことを言われることもあります。

しかし、話を聴くことは簡単なようでいて、難しいのです

愚痴など聞いていると

・「こうしたらいいんじゃない?」という正論

・「しつこいな」というイライラ

・「気にしすぎるお前が悪い」という批判

・「こういうこと?」と先回り

など、色々な感情が胸の内に沸き起こってきます。

そこに口を挟まず(あるいはその意図を確認する質問のみ口は出しつつ)、ただ「聴く」。その人がそう感じていることを認める。これが臨床心理士の専門性です。

佐藤セイ
佐藤セイ

相手の気持ちを「察する」のとは違います!

むしろ、察してしまっても「こうなんでしょ」とは言わず(アセスメントには活用するけれど)、徹底して、クライエントさんの言葉で聴けるまでじっくり待つことが大切です。

これは、実際やってみると、本当に難しいのです。

なぜなら、私たちは、何か問題が起こると「解決してあげたい」「役に立ちたい」という気持ちが自然に生まれるから。黙っていると、まるで自分が無力な存在のように感じてしまいます。

だから、じっとこらえきれず、思わず口を出してしまうのです。

佐藤セイ
佐藤セイ

私もクライエントさんの話は黙って聴けますが、家族や友人の話は口出ししちゃいますよ!黙っているのがつらいので!

Twitterも「話を聴く」のが難しいから炎上

Twitterがよく炎上しているのは、やっぱり「話を聴く」のが難しいからだと思います。

個人のつぶやきの場なのだから、何を書いてもいい前提だと思いますが、やはり「聴く(見る)」だけだともやもやします。ゆえに正論・怒り・批判をリプライしてしまうのです。

匿名なので、対面なら「ちょっとこれはまずいかな」という抑えがきかないのも、ますますTwitterを炎上させる要素だと思いますが。

「話を聴く」のは疲れるが「聞き流す」とバレる

「聴く」ことをわざわざ専門職にしなければいけないほどに、人は話を聴けません。

私も「臨床心理士」の仕事をしない時は「聴く」ことはしません。

疲れるからです。

話聞くだけでしょ?別に疲れないよ?

という人は、多分「聞き流している」んだと思います。

「同じじゃん」と思われるかもしれませんが、「聞き流している」ことに関して、結構人は敏感に察知しています。

「話を聴いてもらう」というのは、「私の存在を認めてもらえるのか」という1つのチャレンジです。自分の存在をかけて全身全霊で話しかけているのです。

言葉だけではなく、表情も姿勢も、声の大きさもトーンも、全てが「話」なのです。

そのときに、存在ではなく、「音」しか聞いていないことは、すぐに分かります。

「話を聴く」と八つ当たりもされる

話の内容自体にストレスがたまることはないのですが、関係が深まってくると、クライエントさんがネガティブな部分をばーんとぶつけてくることがあります

転移とか投影同一視とか色々言い方はあるけど、ものすごく簡単に言えば「八つ当たり」です。

そういう姿を見せてくれるのは、嬉しさもあります。これまで出せなかったネガティブさを「こいつには出してやってもいいか」と特別に見せてくれているということだから。

でも、やっぱりぶつけられると痛いです。人間だもの・・・。

だから「枠」が必要

・面接時間

・面接場所

・面接の料金

など、「枠」のもとでは、その人と徹底的に向き合うけれども、それ以外の「私の人生」はきちんと守るということ。

いつでも話を聴いてもらえた方が、クライエントさんは嬉しいんじゃないの?

料金だって無料の方がいいよね?

と思われるかもしれませんが、自分とクライエントさんの人生をきっちり分けておくことは大切なこと。そこがごちゃごちゃになっていると、

・クライエントさんが自分の課題を考えるのではなく、臨床心理士に依存するようになる。

・いつネガティブな気持ちをぶつけられるか分からないと、臨床心理士が心の準備ができずにしんどい

・臨床心理士が様々な事情で話を聞けないときに、「いつでもいいって言ったのに裏切られた!」「きっと自分より大切な人と会っているんだ」など、かえってクライエントさんを傷つける

・「私は何も提供できないのに、こんな話を聴かせるのは申し訳ない」とクライエントさんが気を遣ってしまう

などの問題がいすれ発生します。

自分もクライエントさんも安全に、ネガティブを思う存分楽しむためにも、枠が必要なのです。

そして、臨床心理士は、クライエントさんがどれだけネガティブな部分をぶつけてきても、犠牲にならず生き残っていることが大事です。

臨床心理士が犠牲になっている姿は、ほんの一瞬だけ「私のためにこんなことまでしてくれた!」とクライエントさんに感動を与えるかもしれません。

でも、その一瞬だけ。何度も使える技じゃない分「前はあれだけしてくれたのに」と落胆させる機会の方が増えてしまいます。

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秘密を守る難しさ~「守秘義務」とのお付き合い~

「話を聴く」とセットになる「秘密を守る」

「話を聴く」に伴って発生するのが「守秘義務」。

臨床心理士は、一般社団法人日本臨床心理士会倫理綱領によって、以下のように「秘密保持」が定められています。

第2条 秘密保持
会員は,会員と対象者との関係は,援助を行う職業的専門家と援助を求める来談者とい
う社会的契約に基づくものであることを自覚し,その関係維持のために以下のことについ
て留意しなければならない。
1 秘密保持
業務上知り得た対象者及び関係者の個人情報及び相談内容については,その内容が自他
に危害を加える恐れがある場合又は法による定めがある場合を除き,守秘義務を第一とす
ること。

一般社団法人日本臨床心理士会倫理綱領

また、同じく心の専門家である、公認心理師は、公認心理法のもと、以下のように「秘密保持義務」を定めています。

第四十一条 公認心理師は、正当な理由がなく、その業務に関して知り得た人の秘密を漏らしてはならない。公認心理師でなくなった後においても、同様とする。

公認心理師法

このように、心を扱う以上、「秘密を守ること」は義務づけられているのです。

「これから自殺する」「○○を殺してやる」など、クライエントさん自身、あるいは他者の身体や心に取り返しのつかない傷をつけることが予測される場合は、関係機関や家族に面接内容を伝えることもあります。

佐藤セイ
佐藤セイ

秘密を守る方がクライエントさんのためになるのか、秘密にしない方がクライエントさんのためになるのか、常に「何が本当にクライエントさんを救うのか」を考え続けることが必要です。

「秘密を守る」がこんなにも難しい

「秘密を守る」、ただクライエントさんの話を誰にも話さないというだけなのに、これもなかなかの難しさがあります。

特に

・「とんでもないことを聴いてしまった!」と驚いたとき

・心も身体も疲れ切ってしまったとき

など、1人で抱えきるのが難しくなると、ついぽろっと余計なことを話してしまうのです。

佐藤セイ
佐藤セイ

「これ内緒なんだけどさ~」と、つい人の秘密を漏らしてしまう人が多いのも、自分だけで秘密を抱えるしんどさに耐えられないからだと思います。昔から「王様の耳はロバの耳~!」って叫びたい人がいたくらいですから。

それを防ぐために必要なのが、

・気軽に相談できる職場の仲間

・一緒にケースを考え、必要に応じて助言してくれるスーパーヴァイザー

・いつものメンバーが揃ったクローズドのケースカンファレンス

など、臨床心理士自身の相談先です。

佐藤セイ
佐藤セイ

なお、この相談先は、守秘義務の大切さを分かっている人であることが大事。

どれだけ親密でも、家族や友達はNGです。

もちろん、この相談時も、クライエントさんの個人情報は言えませんが、それでも「1人じゃない」という感覚は、秘密を抱える器を大きくしてくれます

最後に

話を聴くのは大変ですが、臨床心理士や公認心理師といった専門家にしかできない秘伝の技・・・ではありません。誰にでも取り組めることでもあります。

「私が助けたい」ではなく「この人が頑張っているのを、少し支えたい」と思えるなら、ぜひ自分を守りながら「話を聴く」ことを心掛けてみてください。

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